絶版ラノベを漁誌する

絶版したラノベやそうでない本について書く

鷲見ヶ原うぐいすの論証

鷲見ヶ原うぐいすの論証』(電撃文庫)作:久住四季、絵:カツキ

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読んだ。物知りで変わり者の少女、鷲見ヶ原うぐいすと頭は良くないが「勘が良い」能力を持つ少年、麻生丹譲。二人は生徒会長、薬歌玲の頼みによって、窓のない洋館、「麒麟館」で催されるという記念パーティに出席することになる。そのパーティに呼ばれるのは不思議な力を持つ人間達であった。そしてその翌朝、館の主であり数学博士――そして悪魔と契約していた噂のある男――霧生賽馬が首無し死体として発見される。館は密室、参加者は出入り不可能。凶器は見つからず、被害者の頭部も見つからない。さらに参加者の中に犯人がいるはずだが、全員が犯人でないことが明らかになってしまう。犯人は誰か、もしかして、悪魔の仕業なのではないか……というのが本作のストーリー。

本書の発売は2009年8月。そして現在絶版中。

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目次

結構面白かった。まず一番としてヒロイン、鷲見ヶ原うぐいすがめっちゃかわいい。

  • 鷲見ヶ原うぐいすが最強かわいい

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「鷲見ヶ原うぐいすがいつもいつも授業をサボってどこでなにをしているのかというと、大抵城翠館にある第三図書館にこもっては、おもしろくもなさそうな本を黙々と読んでいる」(p22)

鷲見ヶ原うぐいすは表紙の女の子。小柄で髪の長い少女だ。授業には出ず、人気のない図書館で番人をしている。しかも授業を全てサボり、その上テストでは全て満点を取ってしまうという変わり者である。

「――おい 、うぐいす。僕だ。いるのか?」

(中略)

「やあ誰かと思えばゆずさんじゃないか。いるよ。いらっしゃい」(p23~24)

良い……良くない? 彼女の第一声を読んだだけでもう心が震えたね。この飄々とした感じ、本当かわいい。

彼女の雰囲気は「和猫のように大きな瞳」「ぺたんと寝た猫の耳のようなクセ毛」「舌」といった描写の連続によって猫っぽさが強調されている。猫系文学少女が飄々と譲をゆずさんと呼んでいる気安さ、そして学校の図書館に「いらっしゃい」という厚かましさ。可愛すぎるな。そこは君の部屋ではない。

 

館で死体を発見してしまい動揺してしまった譲を落ち着かせようとする会話なんか声に出して読んでしまった。

「ゆずさん」僕の前にしゃがみこんで、うぐいすが言った。「しっかりして」

「うぐいす……」

うぐいすは僕の目を正面からじっと見ると、細い指を一本立て、

「ゆずさん。名前と所属は?」

「……、は?」

「名前と所属だってば。自分の。はい言って」

「……あ、麻生丹譲。城翠大学付属高校二年二組、出席番号一番」

「じゃあ私は? はい」

「……す、鷲見ヶ原うぐいす。城翠大学付属高校二年二組、出席番号十二番。授業はサボるし試験もサボる。そのくせ成績最優秀の問題児」

「むう……ゆずさんは基本、私に対する認識がひどいよね。それじゃ――」

うぐいすはさっとピースサインを出すとすぐに隠し、

「今の私の指、何指で何本?」

「……人差し指と中指。あわせて二本」

自分の胸を押さえ、

「私の胸のサイズは?」

「あー……と、去年の林間学校で海行ったとき見た感じだと、たぶんDかEでかなりの隠れ巨乳――ってなに言わすんだよ!」

「んふ、ゆずさんのえっち。動物」うぐいすは悪戯っぽい上目遣いで、「さて、こんなところで落ち着いたかな?」 (p157~p158)

「んふ、ゆずさんのえっち。動物」……こんな優しくて面白いセリフがあるだろうか。自分の胸にコメントされたら大概のヒロインは「変態!」とか「最低!」のような罵倒を飛ばすものである。そのあと自分の身を抱いて引き攣った表情をしたり、叫びながら拳を繰り出したりするのだ。

 

しかしうぐいすは違う。「んふ」であり平仮名で「えっち」であり「動物」である。言葉選び一つ一つが丁寧でかわいいし、譲に対して一切暴言を吐かない優しさがそこにある。うぐいすは本当に譲が好きなんだなということが感じられるのだ。

また譲を落ち着かせるためにわざわざセクハラするところ、その冗談めかした会話が成り立っているところに彼らの信頼の深さが見て取れるだろう。これだけ好意を示されておいてうぐいすの想いに気づいていないという譲の朴念仁ぶりには溜息を禁じえない。まぁうぐいすの方も、譲は玲のことが好きだから彼女の頼みを聞いているのだと誤解してるので、どっちもどっちではあるのだけれども。

譲の持つ能力は、優れた五感から微弱な情報を無意識のうちに感じ取りそれを「嫌な予感」とか「気配」の形で認識するという『直感素質』――つまりとても勘が鋭いという能力なのだが、そんな能力を持っているクセにうぐいすの想いには気づかないというギャップが二人の関係に奥行きを持たせているのかもしれない。

 

そしてそのお互いの誤解が解けるのがp311。これはもう告白シーンといっても過言ではない。ここでうぐいすの恋する少女が爆発する。うぐいすが自分の過去を語り、自身が過去に能力を失っていたこと、そのせいで両親に捨てられたことを告白し、それに対して譲が、自分も能力のせいで災難だったがうぐいすと出会って救われたということを伝えるシーンの後である。

「……驚いた。そんなふうに思ってくれていたんだね」

「む……なんだよ。人のこと恩知らずみたいに」

「だって」うぐいすは猫のように笑った。「ゆずさんいつも、説明されてもよくわからないとかネーミングが恥ずかしいとかばっかり言うから、てっきり――」

 そのときだった。

 笑ううぐいすの瞳から、ぼろっと大粒の涙がこぼれた。

「うん? あれ?」

 すぐに手の甲で拭う。けれど涙は溢れて止まらず、うぐいすは「あ、あれ?」と呟き――そのまま顔を伏せて泣き始めた。

「うわ! お、おい、どうしたんだよ!」僕は思わずソファから腰を浮かせた。立ち上がり、落ちる涙でも拾おうとするようにうぐいすの前に移動する。「ぼ、僕、何か悪いこと言ったか?」

「……そうだよまったく」うぐいすは目元を拭いながら顔をあげた。かすかに赤い目と頬で、小さく唇を噛みながら、「ゆずさんが変なこと言うからだよ。責任取ってもらうからね」(p309~p310) 

譲が自分のことを認めてくれていたことを知り、うぐいすは涙を流し始める。

この涙の描写がとても丁寧でたまらない。大きい瞳から「ぼろっと」涙がこぼれ、それを拭っても、かえって溢れて止まらない。自分でも止まらない無意識の涙に、感情が追いつき、そして顔を伏せて、泣き始める。彼女の感情の動きが手に取るように伝わってくる。顔をあげた後の「責任取ってもらうからね」の重みが強くなる。

 

彼女のターンはまだまだ続く。

「ちょ――うぐいす、こら、離れろってば」

「嫌」

 ぎゅう

「ちょ、おい待て! うわ、くっ付くな、この隠れ巨乳――」

 僕がわめくと、うぐいすは小さく顔をあげ、不満そうに僕を見つめた。大きな瞳。長い睫毛。それが急になにかに気づいたようにぱちぱちと瞬き――

 小さな唇が、にい、と悪戯っぽく弧を描いた。

「……ゆずさんのえっち。動物」

 ぐあ

「ふ、不可抗力だ!」(p310~p311)

ナニに気づいたんですかねぇ……。このシーンは最初の方に紹介した、譲を落ち着かせようとするシーンと対応している。あの途轍もなくうぐいすがかわいいシーンだ。告白シーンにあのシーンを入れ込むことでこの小説一番の盛り上がり、そして最高のシーンに仕立て上げているのだ。

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また、このシーンの見どころはもう一つある。譲の離れろに対して「嫌」、そして「ぎゅう」。この、今まで豊富な知識と大人びた余裕でもって譲をリードし続けていた彼女が、譲に対し子供っぽく甘えだすというギャップ。そしてその後ナニかに気づき、悪戯っぽく名台詞「ゆずさんのえっち。動物」である。子供っぽさと大人っぽさが同居している。まさに小悪魔うぐいすである。

 

しかしその小悪魔の好意に、ここまでわかりやすいのに、まだ気付かないのだこの鈍感主人公は。しかしこの後すぐ、麻生丹譲は鷲見ヶ原うぐいすの想いに気づくことになる。

次の会話は、うぐいすが譲に、こんないけないことしちゃってるいいのかな? 譲の好きな玲さんに言っちゃうからねって冗談を言った後。彼女も彼女で、譲は玲のことが好きなのだと勘違いしているのだ。彼は玲をただの恩人としか思っていない。

「っていうか、そんなのお前だってそうだろ。玲にはお世話になってるし、感謝してるから、頼みだって聞いてるんだろ。それは、好きってことだろ?」

「それはそうだけど、でも、違うよ」

 うぐいすは小さく顔をあげた。泣いた目でじっと僕を見つめ、言う。

 

「私は一年前から、ゆずさんしか見てないもの」

 

「……、は?」

 僕はしばし絶句し、間の抜けた顔をさらした。なんだって? それはどういう意味だ? それは――えと。

「……うぐいす。その、勘違いだったら遠慮なく僕を殴ってくれていいんだけどさ。お前、もしかして僕のことが――好きなのか?」

 うぐいすはかあっと今日一番赤くなり、

「き、気付いてなかったの?」

 それから身を起こして、わなわなと拳を震わせ始めた。

「ゆずさんの超鈍感! 鉄鉱! 木石!」(p312~p313)

ド真ん中純愛ストレート! 「複雑な感情」なんて変化球じゃない、直球の「好き」が投げられる。これには譲も絶句。ここまで露骨な感情をぶつけられては朴念仁でも気付く他ない。「もしかして僕のことが――好きなのか?」。そしてうぐいすは叫ぶ「気付いてなかったの?」

譲のうぐいすが自分に恋愛感情を持っている可能性を全く思いついたことがなかったような反応が結構シュール。「なんだって?」「それはどういう意味だ?」などと反応している辺り、「あの書痴で変わり者のうぐいすが恋? しかも僕に? へっ?」みたいなことを思っていそう。うぐいすが恋愛するなんて思ってもみなかった感じだ。だから譲はうぐいすの好意に気付かなかったのかもしれない。

うぐいすの方も、「気付いてなかったの?」を見る限り、アプローチはしていたようだ。だが、譲がそのアプローチに無反応な(ただのからかいだと思われた)ため、玲のことが好きなのだと勘違いしたのだろう。気持ちいいほどすれ違っている。こと恋愛になると、頭脳も勘も空振りしてしまうというのはラブコメではよくある*1と思うが、これはまさしくそれである。この小説はラブコメだったのだ!

あの台詞の亜種「ゆずさんの超鈍感! 鉄鉱! 木石!」についてはもう語ることもあるまい。「えっち」ではなく漢字で「超鈍感!」なところに彼女の怒りを感じる、かわいい。「鉄鉱! 木石!」という謎の比喩、かわいい。ここまで長々と語った事と、この台詞について語るべきことは同じである。つまり鷲見ヶ原うぐいすは最強かわいい。――以上、論証終了。

 

ちなみにこんなアツい告白イベントがあるにもかかわらず、このあと、譲の返事や二人のデートイベントとかは存在しない。まぁ、ページ数的には当然なんだが。次巻……。続きがないのが本当に悲しいな。

 

これだけでは『鷲見ヶ原うぐいすの論証』の感想ではなく鷲見ヶ原うぐいすの紹介になってしまうので、普通に感想も書いていく。

  • 感想

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本作はジャンルとしてはおそらくミステリーである。いや俺はラブコメだと思ってるが、この作品の筋は殺人事件の犯人捜しである。

館で起こる殺人自体は、密室殺人や首無し死体といった定番のものでありそのトリックも目新しいものではない。しかし、その事件を引き起こした動機、それに至るまでに何があったのかという点に重点が置かれている。その進め方が丁寧で一気に読み進めることができた。

他にも、文庫一冊の分量にもかかわらず登場人物の位置付けがしっかりしており、彼ら全員が殺人事件の背景を説明するピースになっている点も良い。

また、例えば、見たものは忘れない完全記憶能力を持っていることから犯罪者の顔を覚えて街中を歩いているだけで犯罪者を検挙できる警察官をしていたり、人の嘘が分かる判別直観を持っているから世界を股にかける探偵であったりなど、パーティ参加者たちの持つ能力も単に能力というだけでなく、彼らの背景やキャラ付けに繋がっており、読んでいて納得感があった。

世界観もよく練られていた。普通の学校環境になじめない能力者のための学校「クラス」や魔術を研究する「結社」など、まさにライトノベルっぽい格好いい設定が全て物語に必要な分だけ用意されている。

 

そして、日常に退屈を感じていて譲たちによく魔術がらみの厄介ごとを持ち込んでくるという玲の存在や、作中で言及だけされるその三人が出会った時のエピソード、なぜうぐいすが譲に恋心を持つようになったのかの理由など、続刊以降でいくらでも膨らませられる成分もたくさん用意されている。

これだけシリーズ化に耐えられるような設定が用意されているのに、結局本書は絶版してしまっていて、次巻がないのが本当に残念。この感想を書くために何度も読み返す中でその惜しさが膨れ上がってくる。鷲見ヶ原うぐいすというキャラクターが一巻だけで終わるの勿体なさすぎる二人のイチャイチャがもっと見たかった……。

 

ちなみに玲の傍若無人で理不尽な言動だったり、日常に退屈していてオカルトがらみの厄介ごとを持ち込んでくるというキャラクターを俺はどこかで見たことがあるなと思っていたが、思い出した。涼宮ハルヒだ。面白い部活がないなら作ればいいじゃない! でSOS団を作るのがハルヒで、おかしな出来事がないならおかしな話が転がり込んできそうな生徒会長になればいいじゃない! で選挙に出たのが玲みたいな感じだ。

よく見れば『鷲見ヶ原うぐいすの論証』と『涼宮ハルヒの憂鬱』はタイトル構造が似ている。この小説が2009年でハルヒのアニメが2006年なので、作者は無意識的に影響を受けていたのかもしれない。まぁ『(人名)の(概念)』みたいなタイトルはラノベに限らず漫画でもよくある型だけれども*2

 

そんなことは置いといて。感想はこれくらいだろうか。いやあ面白かった。キャラを立てるのが上手い。一つ不満があるとしたら挿絵が冒頭のカラーと章の扉絵しかないことくらいだけど(玲の挿絵や、例の台詞の挿絵や赤面してるうぐいすの挿絵が是非が見たかった!)、それも別に作品自体の̪疵瑕ではないし。全体的に僕は満足できた。作者の他の作品を読んでみたい。って思ってカドカワストアを見てみたところ他の電撃文庫作品も軒並み絶版していた。なるほど。

 

dengekibunko.jp

*1:ゲーマーズ』とか『かぐや様』とかああいう感じ。

*2:『蒼井葉留の正しい日本語』とか『キノの旅』とか『ジョジョの奇妙な冒険』とか……意外と思いつかないな。